・地面に足を着く①
教室の初めに子どもの走りを見せてもらうと、遅い子には共通した特徴がある。それは、上げた足をなるべく前の方に着きたがるということだ。
足を前に着いて、その上に体をもっていき、なるべく後ろの方で地面を蹴る。こうすれば一歩ごとのストライドが大きくなり、速く走ることができる、と勘違いしている。
結論を言ってしまうと、速く走る人は、足を重心の真下に着く。着いた0.1秒後にはもう地面から離れている。
速く走るためにはこの勘違いを直さなければならない。が、これがまた難しい。理屈は小学校1年生でも理解できるけど、説明が長くなってしまう。『俺は速くなる!』と決めてきた子どもは聞いてくれる。しかし親に連れてこられた子どもはここで脱落してしまう。こちらも、速くなりたいと思っていない子どものモチベーションを上げる努力をする気はないので、そこで試合終了となる。
まずはストライドのことから書いていこうと思う。
人類が出せる最高のストライドは、走り幅跳びの一歩だと思う。最近は映像技術も進化してきて、踏切がファウルかセーフかの瞬間を画像で見ることができる。さて、その瞬間の画像を思い出してほしい。体の前に足を伸ばして踏切板に触っている選手はいるだろうか。そんな選手はいないと断言できる。踏み切る瞬間にしっかり自分の頭、重心、足が一直線になり、地面からの跳ね返りをもらわないと、遠くに飛ぶことはできないからだ。
大股で自分の前に足を着き、後ろで蹴る走り方は、一見するとストライドが大きいように錯覚してしまう。しかし、自分の重心の下に足を着き、地面の跳ね返りをもらっていくほうが、ストライドが広がることを納得してもらう必要がある。
次にピッチについて。
速い選手は、足を地面に着いて、0.1秒で跳ね返る。遅い子どもは、足を前に着いて後ろで蹴る間に0.2秒以上かかっている。100mを走るとき、1秒ごとに0.1秒の差がついていけば、50歩では5秒差がつくことになる。
走るという動作は、地面に足が着いている時間と、空中に浮いている時間の2つに分類することができる。重力は全員平等なので、空中に浮いている時間はどうすることもできない。どうにかできるのは、いかに地面に足を着いている時間を短くするか。この一点につきる。この時間を削りだすことが速く走るための最大のポイントとなる。
地面に足を着く時間を0.1秒にして、腕ふりを0.1秒にすることでピッチが速くなる。そのため、地面に足を着く説明と腕ふりの説明は同じ日にしなければならない。足が速くなっても、腕ふりが0.2秒かかっていればピッチは0.2秒のままとなり、『教室に来たのに速くならなかったな』となってしまう。きちんと話を聞いてくれた子どもにそれでは申し訳ないので、そこは僕が頑張って、足と腕のピッチを速くしてあげたい。
最後にパワーについて。
足を前に着くやり方は、大きな問題がある。それは、無駄なエネルギーを使っているという点だ。
試しに、できるだけ体の前に足を着き、反対の足を体の後ろに置いてみてほしい。その体勢から後ろの足を上げる(間違ったフォームで走っている体勢をつくる)と、体は後ろに倒れてしまうことが分かる。
なんとなく前に進んでいるから誤魔化せてしまうが、この走り方は、一歩一歩ブレーキをかけながら進んでいくようなものである。
理想は重心の下に足を着き、跳ねて、反対の足も下でもらう。どの瞬間を切り取っても、後ろに倒れないような体勢で走ることが望ましい。
以上の点から、足は重心の真下に置くほうがよい。
重心の下に足を着くという技術に、年齢は関係ないように思える。小学生の頃に教えてもかまわないのではないだろうか。弊害は考えられない。