速く走る10

・僕の楽しさ

自分の考えを言語化していると、自分の考えに気づかされることがある。自分が何を目的として教えているかということだ。

僕はこの教室にどんな人が来ても速くする自信がある。小学生だけでなくプロスポーツ選手が来ても大丈夫だろう。まさか走りのことをこれだけ勉強している看護師がゴロゴロいるとは思えない。しかも運動音痴だったという特徴を持っていて。たいていの人はみんな陸上部出身で、陸上の研究をしているだろうから、悪い意味ではなく僕とは目線が違うと思う。

僕が目指しているのは才能の100%が出せること。

そのためには、『いまやったほうが勝てるけど、将来の伸びを考えてやらないでおく』という部分が出てくる。おそらくコーチとして名を売るためには、この教室に来た生徒が大会で優勝してくれたほうがいいに決まっている。筋トレを教えて、強豪校のメニューをこなさせればいつかそういう子も出てくるんだと思う。でもやらない。

僕が面白いと感じるのは、その子の悪い部分を取ることのようだ。それは速いとか遅いとかは関係ない。『ここが気になります』と言ってくる時点で向上心があるし、話も聞いてくれる。そういう子の悪い部分がなぜ起こっているかを医学的に考えて、1時間以内に直す。これが面白い。

病院では、入院している高齢者が寝たきりにならないようにリハビリをする時間がある。ベッドに寝ていると、日常生活で何気なくしていたいろいろなことを忘れてしまう。座り方、立ち方、歩き方。『友達と会わないから、しゃべり方を忘れてしまったよ。』なんて笑い話もある。

そんな患者さんに、理学療法士さんが体の動かし方を再教育していく。足の着きかた、体重のかけ方、反対の足の進め方など。はじめはベッドサイドに座ることもできなくなっていた患者さんが、立てるようになり、最後には1人で歩けるようになっていく。

僕がやっている走り方教室はまさにこのイメージだと思う。リハビリをするように走り方を教えていく。

僕のやり方で育った選手は、そのままではトップに立つことはできない。100mを12秒ジャストで走るくらいになると思う。でもこのフォームは、①誰にでもできる②欠点が少ない③エネルギー効率がよい④クセがない⑤トップを目指そうと思ったときに改善しやすい、というメリットがある。

①誰にでもできる

医学の知識を使って、根拠のある動かし方をしていく。そのため当たり外れがない。

②欠点が少ない

走り方を見て、うまくいっていないところをアドバイスしていくため、自然と欠点の少ないフォームになっていく。

③エネルギー効率が良い

医学的にマイナスの少ない方法を伝えていくため、どの理論よりもエネルギー効率の良いフォームになっていると思う。ただ、トップに立つためには、エネルギー効率が悪かろうが素早く足を上げる、地面を押すということも必要になってくるため、そこは説明しておく。

④クセがない

子どものフォームは固定しない。「重心の下に足を着くほうが速く走ることができる」という理屈は説明するけど、そのあとに子どもが足を置く場所は本人にまかせる。外からいじられたフォームは直すのが大変だからだ。僕が「ここに足を着いて」と指導するのではなく、本人が考えて着いた場所なので、クセがつかない。

⑤トップを目指そうと思ったときに改善しやすい

子どもたちには「このフォームで速く走れるようになるけど、もっと筋力が付いてきたらこのフォームではいけない」という事を説明していく。なぜいまこのフォームなのか、そして筋力が付いたらなぜこのフォームではだめなのか、子ども自身が知っているため改善していける。